君は二つ手にした花火を見比べより綺麗に見える方を僕に差し出してくれた。
ありがとうと僕が言うと君は燃え上がるきらびやかな花火より紅潮した頬で照れくさそうに微笑んだね。
その表情のなんて愛しいこと切ないこと。
好きだ好きだ好きだ殺したいほど好きなんだ
「やっぱり締めはこれでしょう」
ジャジャーンと大げさにリヴァルが線香花火を出してくる。
生徒会のメンバーとスザクの分を含めるにしろ、ちょっと見た事も無いような量だ。
大量すぎる線香花火の束に、ナナリーを除いて皆がケラケラ笑い声を上げた。
ナナリーは一人、ポカンと首を傾げている。
「アホ、リヴァル」
「危ないってばー」
「点火!」
「ちょっともう笑わせないでお腹痛いよー」
適当に束にした線香花火にリヴァルが火をつけ、大きい火の玉が弾け始めた。
ナナリーは見えないのに花火なんて楽しめているのだろうかとスザクは思ったが、それはすぐに杞憂だと解る。
皆の笑い声。
火のはじける音。
頬に触れるうっとうしい位の煙。
ルルーシュが一本の線香花火に火をつけると、火薬の匂いが強く香った。
あぁ夏の匂いだ。
夏が燃える匂い。
それらを感じて、ナナリーは嬉しそうに微笑んでいた。
「綺麗だな」
君が言う。
「そうだね」
僕が応える。
でも僕が綺麗だと思ったのは花火なんかじゃない。
君のそのオレンジの火に照らされた横顔が何より綺麗だと本当は言いたかった。
言ったところで呆れたように笑われるのがオチだけどね。僕は本気でそう思っていた。
「もう夏も終わるな」
「ルルーシュは夏が好きかい?」
「とんでもない」
惜しむような言葉を発しておきながら、君は皮肉に笑ってそれを否定する。
「嫌な思い出ばかりだよ」
そうか。
そうだろうね。
君にとってこの茹だる様な気温の時間はもはやトラウマものの記憶塗れなんだろうね。
けれど酷いな。
僕は夏を一番愛しているんだよ。
「僕は好きだけどなぁ」
何故ってルルーシュ、君に逢えた季節なんだから。
僕はもう花火には火を点けず、長時間しゃがみ込んでいたことで固まった筋肉を伸ばしながら言った。
夏はお前に似合うよと君が素っ気無く言った。
それってどういう意味だと聞くと、暑苦しいところがとからかわれた。
酷いなぁ、と言いながら何とも思ってないように笑う。
君にとって僕は暑苦しいイメージなのかと本当はほんの少し傷ついたのだけれど、そこはほら、流しておかないと。
やっぱり僕もあの頃より随分大人になったんだし。
「でもすぐに涼しくなるね。もう冬がくるよ」
「秋はどうした」
「秋ってすぐ過ぎちゃう気がしない?何か曖昧で見落としがちな変化ばかりで」
「冬は嫌いだが、秋はそうでもない」
「ふぅん。秋が一番好きなんだ、ルルーシュは」
「嫌いじゃない」
「素直じゃないなぁ」
そんなところも全部ひっくるめて、君を愛しています。
こんな僕を君は知らないんだけどね。
「アチ」
飛んだ火の粉で指を火傷したのか、ルルーシュが思わず花火を落とす。
オレンジの焔は地球の上でゆっくりと静かになった。
君は無防備なもので、少し涙目になりながら指を口に含んだりなんかして。
ちらりと見えた扇情的な赤い舌に僕の邪な心臓が跳ね上がり、耳まで熱くなるのを感じた。
唐突に乱暴な気持ちになる。
偽りの友情の下に隠した僕のドス黒い欲望を披露したら、君は一体どんな顔をするんだろうね。
出来もしない想像をしたら可笑しくなって、僕はアハハと声を上げて笑った。
君は勘違いしたのか赤い顔をして
「笑うな、スザク!」
と上目で僕を睨んできた。
あーもう。
好きだ好きだ好きだ!
いっそ殺してしまったら君は僕のものになるのかな。
Fin.
拍手用に書き始めたのですが微妙に長くなってしまったので通常に更新しました。