「私と……死んでくれないか」
普段の凛々しさからかけ離れて震える彼女の声は、さらに驚くほど、彼女の言葉とは思えない台詞を紡いだ。
でも、だからこそ。
「―――いいよ」
だからこそ、彼女の心の悲鳴が聞こえた気がして。僕はそう応えていた。
差し出した手は不思議と死への恐怖はなく、震えはしなかった。
ただ、守りたかった。
彼女が望むなら、なんでもしてやろうと。そう思った。
それが、彼女から全ての哀しみを断ち切ることになるのなら。
カガリ。
可愛い、僕のただ一人の血を分けた分身。
僕が守ってあげる。だから――――
――――だからもう、泣かないで。
マリアの爪痕
暗いコクピットの中には、特有の蒸れた性の匂いで満ちていた。
「ん……ん……っく、」
二人分の獣めいた吐息と、くちゅくちゅと淫猥なぬめった音が其処には響き、
時折苦しそうな喘ぎがそれに混じる。
「キラ……そのまま」
「んっふ……うっ」
「いくよ。飲んで……」
アスランの命令に、びくっと反り返った白い咽喉が震えた。
銜え込んでいた彼自身にその衝撃は敏感に伝わったらしく、
緊張に締め付ける細い咽奥に一瞬早くそれは放たれた。
「…っ……っん……ッ!」
心の準備もそこそこに唐突に口腔を満たしたそれは、器官に深く入り込み、僕を苦しめた。
しかしごほっと咳き込みそうになるのを意地の悪い彼は許さず、まだキラの口腔に自身を収めたままだった。
「―――ッふ……」
こみ上げる吐き気をなんとか抑え、苦労して青臭いそれを飲み下すと、彼は満足げに目を細め、やっと自身を引き抜いていく。
「……」
そして、まだ微妙な熱を帯びた視線は僕を見透かすように絡みつき、腕を伸ばされて、僕は立ち上がる。
そのまま愛撫さながら背に腕を回され、相変わらず女みたいに細いとからかい混じりに抱き寄せられる。
体温が、鼓動が触れ合うのがどうしてか痛い感じがして。
僕はそっと眉を顰めるが、抱きしめてくるアスランはそれに気づくことはないだろう。
僕は顔を伏せていたから。
「……ン…」
奪われるように、交わす唇。
少しかさついたアスランのそれを感じていると、
その異邦者はまるで仕組まれたことのように、突然現れた。
「…ッ何、して…っ!?」
「ッ!」
息を詰める僕と異邦者である彼。
しかしアスランだけは少し驚いた様子だったがまるで動じもせず、冷静だった。
「アンタ……誰だよ!此処で…何してる!?」
「あ……」
「あーあ。見られちゃったね?キラ……」
「ザラ隊長……どういうことですか?」
濡れ羽のような黒い艶やかな髪を跳ねさせた少年は、その紅い瞳を激情に揺らしてアスランに言った。
「見て解るだろ?」
赤裸々なシーンを見てしまった羞恥と怒り、衝撃に震えているそんないたいけな少年に、アスランは飄々と言った。
それを信じられない気持ちではらはらと見つめるが、僕はどうすることも出来ない。
「SEXしてたんだよ」
「こんな、事してて……いいの?君……」
「今はフリーだ…スクランブルは出ていない」
「っン……」
「集中しろよ……お前の役目は心配することじゃない。俺の相手だ」
「アスラン……あ……っ」
「……ちゃんと償えよ」
「……っ」
「お前は、カガリの代わりなんだから」
彼女はアスランに恋をして、
アスランもきっとカガリを愛していて、
二人は幸福だった筈だった。
だけど、何が二人を変えたんだろう。
何が彼女を壊したんだろう。
僕は死ななかった。
僕だけ死ねなかった――――
「お前がカガリの代わりをしろ」
「あ……っや――…っ………」
「あぁ…コレ?彼の癖、ですよね。背中に爪立てるの……」
「シン―――!貴様…!!」
「キラ…さん……」
「なんで………僕と寝るの?」
「シンにはもう二度と会うな。いいな」
「アスラン……その猫…」
「お前の遊び相手だ。こいつをやるから、部屋で大人しくしてろよ」
「お前は俺の女を殺したんだ」
「オレ…じゃ、駄目ですか…?キラさん―――」
「殺されたいのか?」
「寂しい……から」
「……身代わりなんて!」
何がいけなかった?
――――――何処から間違ったんだろう
「その、瞳が……オレを、誘うから……」
「全部、嘘。嘘ばっかり。そんな顔して触るな、なんて……誰も信じないよ。キラ」
「おいで…怖くないから」
「そうだ。ヴァニラがいい!ヴァニラにしましょうよ、こいつ」
「あんまり構いすぎるなよ。殺したくなる」
「おやすみ……ヴァニラ」
「もっと、爪を立てて。痕、ちゃんとつけて。オレに縋って―――」
「シン……もう此処に来ちゃ駄目だ」
「カガリは……知っていたんだ。俺がキラを」
「今すぐ死んでくださいよ。アンタ…キラを傷つけるばっかりだ」
「僕は…身代わりだから」
君が傷付くのは解っていた。
だから一生、俺が背負うつもりだった。
この、罪深い嘘を――――
→To be…
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