停戦して幾日が過ぎた。
皆が思い思いの場所へ散り散りになり、キラが何の根拠もなくこれからは一緒にいられると思っていたアスランさえ、今はもう傍にいない。

キラだけが、ただ取り残されて。
手の平から何もかもが零れ落ちたかの様な、真っ白な空間で、僕は今日も一人、膝を抱えて泣いている。







がれる指先












           1.
 純白のシーツの上で。
キラは四つん這いになる形で、後ろから大きく脚を開かされていた。
「あ…っ、や………っ」
脚の間に深く腰を入れられて、キラはがくがくと揺さぶられる。
奥に触れる律動が、キラに切ない悲鳴めいた喘ぎを零させた。
最奥を突かれる苦しさに、キラはほとんど無意識のままシーツをずり上がり逃れようとするが、華奢な腰を背後から抱え込んだ白い腕が、それを許さない。
「ん……っく……ぁ」
衝動が苦しくて。
思わずシーツを掻き寄せて、縋ろうとするけれど、それさえも許さずに腕を奪われる。
それはお互いに絡むこともないまま、キラの背へと押し付けられてしまう。
「あ……っ、ぅ」
片手では支えきれずに、キラの上半身がベッドへと大きく沈む。
腰を抱えられていた為、そこだけは崩れることなく高く抱え上げられた。
腰だけを突き上げたその体制と、自らの漏れる声の甘さへの羞恥で、キラの頬がかあ、と染まった。
それを見てイザークは満足そうに唇を引き、更に繋がりを深くしていく。
「ああッ……ん…っあ」
そして、繋がった場所へと指を滑らせたイザークは、確かめるかのように其処を辿った。
「んん…っや、」
く、と指に力を込められる。
熱をくわえ込まされている其処はこれ以上はないくらいに限界に解かされているのに、イザークは躊躇いなく指を進めてきた。
「ああああぁ――――!」
信じられないくらいの衝撃と痛みがキラを襲う。
キラは迸るような声で、啼いた。
許容量を越えて拡げさせられた華奢な腰は軋みを上げ、言うまでもなく、鮮血が滲み始めていた。
激しい痛みがキラを支配する。

逃れられない苦しみ。
ぶつけられる、激しい憎しみ。
「あ……っ、おねが………も、っゆる……して…っ」
繰り返し襲う果てのない苦痛と哀しみの中で。
キラはそれをうわ言の様に呟いた。
「……なんだ」
「おねが、い……っもう、――――、」
微かに途切れるほどに小さな声でキラが呟く。
その言葉は、過ぎたものだったのだろう。
イザークにはその微かな懇願の声がはっきりと聞き取れたようで、一度は引いたものがキラの言葉を咎めるように、最奥に深く突き入れられた。
「んく……っ…あぁ、……ねが…ッ」
アメジストの瞳が、零れんばかりに大きく見開かれる。
悲鳴が熱く、喉を焼く。

それは痛みで遠のきかけた意識を更に上回る痛みで覚醒させる、残酷で酷い仕打ちだった。


呟いては酷い責め苦を負わされる、イザークの逆鱗に鋭く触れるその言葉。
それでもこの言葉を言わない日はない。
毎晩イザークに抱かれる度に、繰り返し何度も懇願し、口にする言葉。



気の遠くなるような苦痛の中で。
それはキラが見つけ出した、唯一の逃げ道。


「キラ……」
腰を動かされる度に、激しい動きに頬にシーツが擦り付けられる。
そのひりつく痛みを振り払うようにして、キラはイザークを微かに振り返った。
痛みでじんわりと視界を歪ませる涙。
それは一度瞬きをした瞬間、それはぽつんとシーツに吸い込まれていった。
透明な轍が、頬を滑っていくのを、見て。イザークは何故か、自分が痛みを耐えるような顔をした。
「キラ……痛いか?――忘れるな。俺が与えた痛みを……」
いつもの凍りつくような眼差しではなく、溺れるような悲しい蒼が、此方を見つめている。


――――どうして、そんな瞳を…するの?


まるで愛に狂おしいような顔をして、イザークはキラを見つめたが、それに気付くことなく、キラは逃げるように目を逸らした。
途端に噛み付くような勢いでキスをされる。
「ん……んんっ、ふ……」
けれどもそれは実際に歯を立てられることはなく、濡れた舌先が唇を撫でて、口腔に滑り込んでくる。
呼吸まで奪いつくす、ただただ濃厚なキス――――
濡れた熱に、眩暈がした。
絡め取るように舌を舐められ、吸われる。

出会った時にされたものとは、まるで反対なそれに、耐え切れない涙がぽろぽろと零れる。


――――そんな風に、しないで。


出来ることなら、今からでも、引き返せるなら。


――――お願いだから、僕をそんな瞳で見ないで。

僕は弱い人間だから、縋ってしまう。
貴方の激しい感情に流されていくのを、受け入れてしまいそうになる。


――――此処で、とめて。
憎しみなら、痛みでしかないなら……


ちゃんと、僕を壊して。
もう二度と、望まないで済むように。


僕が、貴方の光を失くした。
それならば………


―――――あぁ、僕を、殺して。

夢みたいに、全部、無くしてくれればいい。



























         2.
―――デュエルのメカリック・ブルーの機体から、一人の少年が目の前に降り立った。

「俺には権利がある」
薄暗い、エターナルのコクピットの中で、少年の発した声は凛と反響する。
 キラがフリーダムのパイロットだと確認するなり、少年は自らを名乗りもせずに唐突にそう告げてきた。
キラはただただ呆然と、少年の絹糸のように美しく棚引いては光を弾く銀の髪や、物怖じなく此方を何処か挑戦的に見据えてくる眼差しの宝石めいたアイス・ブルーの瞳に目を奪われていた。
「戦争は停戦した。だが俺個人の恨みは、全く消えてはいない。」
「……あの…?」
「この傷の代価を、払ってもらおうか。キラ・ヤマト」
「傷――――?」
ぐいと手首を引かれる。
予想以上に軽かったのだろう。強い力で引かれて胸に倒れこんできたキラを、少年は一瞬、酷く驚いた瞳で見ていた。
だがそれも2,3度の瞬きで先程の瞳の、冷酷な表情に戻っていった。
「解っているだろう?俺が誰なのか……」
目の前に聳え立つデュエル・ガンダム。
そこから降りてきたのは紛れもなくこの少年だ。
それは、解る。キラの目の前で降りてきたのだから。
「貴方は――――」
「そうだ、あの時のデュエルのパイロットだ。」
「……ッ」
言うなり床に押し倒されて、背中が軋んだ。
彼は、僕が傷つけた、デュエルの。
右目上から斜めに左目下まで横断している大きな傷。これが、そうなのだろう……。

「お前には必然がある。だから、逃げることは許さない。」
「な…っ」
体格差から、抵抗は完全に近く封じられていた。
手も、足も。慌てて逃れようともがいたが、無駄がいいところで、寧ろ自分の何処かしらを痛くしてしまうだけだった。
彼は、何をしようというのだろう?
目の前の少年に大きく傷を負わせたショックは、少年に痛みを負わせるような抵抗を躊躇わせた。
言い知れない不安が、胸に募っていく。
少年にはそれが理解できたのか、く、と口の端を上げ、タイミングを計ってキラにくちづけてきた。
「……っん――――…!」
くぐもった声が、鼻から抜ける。
自分が何をされているのか、混乱してしまって、すぐには解らなかった。
顔を背けることも許されず、唇をきつく合わされる。
彼の冷たい眼光が自らを貫くのが解って、目を合わせるのが怖く、キラは瞼を上げる事が出来ない。
「ん……っふ、」
冷たい舌が、上唇を辿り、下唇に鋭い感触が当てられる。直後の痛みから、噛まれたのがわかった。
咄嗟に開いてしまった歯列から、強引に舌が潜り込んで来る。噛んで拒むことは先読みされていて、頤をきつく押さえられていて出来なかった。
「…っ、ふ……ぅ…っ」
何とか逃れようと顔を逸らすその度、何度も深く角度を変えられ、追いつかれてしまう。
首を振ろうとしたが駄目だった。
怯え竦むキラの舌を追いかけ、お互いの歯がかちかちとなる。絡め取られてしまうと、痛む程にきつく吸われた。
激情をぶつけられるような、そんなキスだった。
そのもの行為ではなく、その先にあるものを強く意識させられる、そんな淫らな、繋がり。
「ぁ……」
銀の糸を微かに引いてやっと放された唇からは薄く血が滲んで、ひりひりと外気に痛んだ。
それはやがてかゆみのような、耐え難い疼きに変わる。
ともすればもう一度してくれと、自分からせがんでしまったかもしれないような。
「そうだ。そうやって大人しくしていれば、それなりにしてやる」
くったりと力をなくしていれば、酷薄な微笑みがキラの頭上で囁く。
今抵抗しなければ、もう二度と逃れられないような、そんな気がして。
キラは声を振り絞った。
「離して――――…」
ふ、と瞳の蒼が細められる。

嘲るように微笑んでキラを見下ろしているのに、キラには少年が泣き出すように見える。
















微かに覗くその哀しい眼差しが、もはやキラを縛りはじめていた。














































          3.
「お前、アスラン・ザラと親友だったらしいな」
彼、イザーク・ジュールとエターナルで共に過ごし始めて、2週間が経った。
艦内の談話室で、イザークとキラは、クリーム色のソファーに並んで座っていた。
一口コーヒーを傾けたイザークは唐突にその問いを投げ掛けてくる。
「……はい、幼馴染みで…」
「……ふん、」
声が、震えた。
そうならないようにと心を必死で押し殺し、慎重に言葉を紡いだつもりだったのに、どうしても、それは抑え切れなかった。
キラがアスランに抱いている想いは、友人のそれとは違う想いだったから。
気付かれて、しまっただろうか。
キラが、アスランを――恋愛感情として、好きだという事に……。
イザークは感が鋭い人だから、今日まで気をつけていたつもりだったが、疑われているのかもしれない。
イザークは、どう思うのだろうか。
僕が、アスランの事を好きだと知ったら。
何とも思わないだろう、自分は復讐として抱かれているわけだから、僕の感情なんていらないだろうから――――
如何してか、胸がつきりと痛む。
それとも、軽蔑されるのだろうか?男が男を好きになるなんてと……
イザークとキラの関係は、身体だけだから、イザークにそういう差別感情があっても、おかしくはない。
「……なら知っているだろう、奴の今後を」
「え?」
「あいつが、オーブに行くことだ」
今、何て?
アスランが……オーブに?どうして?なんで?
そんなの、一言も聞いていない。
「よっ、二人ともこんなところで何話してるんだ?めずらしいな」
キラが混乱に血の気を引かせた時、背後から聞き覚えのある声が割って入ってきた。
陽気で、艶のある、少し低めの声は、ディアッカのものだ。
二人はあれからキラの部屋に殆ど居ることが多く、艦内といえど外に居るのは珍しい事だから、ディアッカはそんな事を言いながらにこにこと寄って来た。
キラの様子がおかしいのを悟って、何気なく気を回しているところもあるのかもしれない。
ディアッカ・エルスマンは、そういう事があっさりと出来る人だった。
「ディアッカか。ちょっと、アスランの話をな」
イザークは数少ない親しい友人に向ける、和やかな瞳でディアッカを見た。
単独行動を好む節の中で、同室だったというディアッカとだけは、よく行動を共にしている。親友なのだろう。

「あぁ、オーブに降りるっていうやつな」
やはりディアッカも、知っているのだ。
キラには、言わないのに。
ずきずきと胸が痛む。
キラはさり気ない動作で此方に座ろうとするディアッカの為に、少し彼らから離れようと席を立つ。
「待て、何処へ行く?キラ。まだ行っていいとは言ってない」
「いえ……あの、別に何処にも…」
途端、鋭い視線を浴びせかけてくるイザークに、キラは焦って何もいえなくなる。
そんなつもりではなかったのに、彼を怒らせてしまったらしい。
「そうカリカリするなよイザーク。キラは俺に席を開けてくれようとしただけで、別に何処か行こうとしたわけじゃないと思うぜ?なぁ、キラ。」
「は…はい」
ディアッカの言葉に救われて、イザークも納得したみたいだった。ほっと胸を撫で下ろすと、イザークに罰が悪そうに視線を逸らされる。
「ありがとな、キラ。でも、俺はコッチ。」
そう言って、ディアッカはキラが譲ろうとしていたイザークの隣ではなく、キラを挟む形でキラの右隣へ座った。
そしてくっと距離を詰められる。
「あ、あの……少し離れてくれませんか……?」
お互いがぴったりとくっつく距離に疑問を感じ、キラからも離れようとイザークのほうへ腰を浮かしたが、何故かそちらの距離も詰められてしまっていた。
「なに、此処じゃ不満?なら、どっちかの膝に来なよ」
「そうだな、それもいい」
にやりと悪びれもせずに笑うディアッカと、本当にやりそうな程目が笑ってはいないイザーク。
キラは諦めてその微妙なスペースへと無言で腰を下ろす。
居心地が悪くて、しきりに身を捩じらせてしまう。
「なんか、変な気分になる。動くなよ」
ディアッカがそう言って、キラをじっと見つめてきた。
何となく危険を感じて、キラはぴたっと動くのを止めた。
「……おいあんまりイヤらしい目つきでこいつを見るんじゃない」
「なに、イザークお前妬いてん…」
「で、アスランだが。明日発つらしいな」
半ば身を乗り出してきたディアッカを無視して、イザークが話を進めた。
「明日…?」
「何、キラ、お前知らなかったの?結構前からアスラン言ってたぜ?」
キラが思わず声を上げると、ディアッカは意外そうにそう言った。
「カガリ姫のオーブ再建のお手伝い。オレてっきりお前も知ってるもんだと思ってたよ。お前ら、親友なんだろう?……まぁ、親友だからこそ言いにくいってやつかもしれないしな…」
明日、アスランが…いなくなる?
僕には、何も言わずに……
足先から、嫌な寒気が走る。
気持ちが悪い。吐き気がする――――…

「まるで結婚だな。初めての共同作業、みたいな」
二人の顔にグレーがかかり始める。
声が遠い――――頭が真っ白で、何も考えられない。

「キラ……戻るぞ、顔色が悪い。」
「あぁ…本当だ。おい、大丈夫か?真っ青だ」
「悪いがディアッカ、またにしてくれ」
「あぁ…気をつけてな。俺も行こうか?」
「いや、いい。大丈夫だ」
「ごめ……なさ、一人で戻れます、から、イザー……さんは、のこって…」
そう言って立ち上がろうとすると、全てが色を失くした。
がくんと崩れ落ちるのを、イザークがイザークが抱きかかえた。
「何言っているんだ。満足に立てもしないくせに。行くぞ」
「……キラ、ゆっくり休めよ。お前、最近いつも顔色悪いよ。それに、痩せ過ぎだ。このままじゃ病気になるぜ。……何があったか知らないけど、ちゃんと食って、しっかり休め」
そのディアッカの言葉を最後に、キラは急速に意識を手放していった。

























































         4.
 アスランには、会えなくなった。
それには、イザークに気付かれてはいけないという、理由があったから、その理由にさえも逃げていたんだと思う。
思うほどに、辛くはなかったのだ。
アスランがカガリが一緒にいるところを見てしまっては傷つく事もなくなったし、何よりもアスランの目を見る事は今の自分には出来なかったし、アスランにも見られたくなかった。
自分は穢れきっていると思った。
自分の心を裏切り、イザークの手すらも汚させているのかも、と。
陵辱を受けているその瞬間だけ、自分は、まるでそれが麻酔のように苦しみから逃れられるような気がしたのだ。
こんな自分は嫌われて当然だ。



アスランがスキ?
アスランの笑顔が、たとえカガリだけに向けられるものだとしても、今の僕にはそれが支えだ。
それだけが、支えだ。
けれど、知らないうちに、アスランよりも、イザークのことばかり気にしている自分がいる。
彼の一挙一動が、気になる。
復讐されるほど憎まれている自分なのに、嫌われるのが怖いなんて、馬鹿げている。





どうして――――如何してなのだろう?




それとも、アスランに捨てられたから?


だから彼に 縋るの………?

















         ◆◆◆
 意識を失っていたのは、そんなに長い間じゃなかったらしい。
イザークに抱きかかえられて部屋に連れて行かれる途中、キラはイザークの腕の中で目を覚ました。
降りようとしたが歩くことは愚か、立つことも出来ないことに気が付いて、大人しく運んでもらった。
精神的苦痛や疲労で食事があまり取れなくなって、随分たっていた。
おかげで先日、ラクスには、強制休暇を言い渡されてしまっている。

そう考えると、これは貧血なのだろう。
アスランのせいだなんて、イザークに言われないで済む言い訳はつく。
キラは、ふ…、と細い溜息を吐いた。
イザークに運んでもらっている謝罪がしたかったが、今は声を出すことも、気持ちが悪くて辛い。
キラはただ、黙るしかなかった。





部屋に入ると、ベッドまで運んでくれようとするのをキラは断り、ドアの前でそのままずるずると座り込んでしまった。
涙が勝手にぼたぼた落ちてくる。涙腺が壊れたみたいに。
それとも自分はこんなところまで人間じゃないのだろうか。本当に故障しているのかもしれない。僕は何処まで機能的に作られているのだろう……
イザークから泣いているのを隠す為、キラは膝をぎゅうと抱えた。
幼い頃からこの癖は変わらない。
そうして必然に眼に映る、膝小僧のほくろ。
生まれたときからあるこのほくろは、けれども幼い時より鮮やかに、存在を増していた。
いくつもの涙を吸って、哀しみの数だけ、このほくろも成長していくのだろうか?


今は指一本さえ動かせない。
けれどベッドまで行くのは、どうしても嫌だった。
そのまま行為に繋がってしまいそうで。
二人きりになれば、必ずそういうことになる。今まではそうだった。どんなに止めて欲しいと泣いても、縋っても。
今は絶対にそんな気にはなれない。
自分の全てに、彼が入ってきてしまうような気がして。
普段は隠せる心の奥の奥まで、今は脆くなっているから。
そんな事をしたら、自分はきっと人格から崩れ落ちる。
積み上げた積み木のように、がらがらと。



「キラ、身体にさわる。いい加減にしろ」
しばらく見守っていたイザークだったが、業を煮やしてキラの薄い肩へと手を伸ばした。
指先が触れてきた感触に、びくんっ、と身体が強張ってしまう。
その瞬間、衝撃で、膝小僧のほくろに涙が落ちた。
つう、と滑るようにそれは流れ、イザークの眼にも勿論映ってしまっただろう。
「……っごめ…なさ……、」
気付かれてしまった事が、哀しい。触れるぬくもりが、痛い。
―――如何して?
イザークはそのまま何も言わずにキラを抱き締めてくる。
今までにないくらい、酷く優しい柔らかさで。
―――如何して、そんな風に触れるの?
貴方にとって僕は、憎しみでしかないのに。傷でしか、ないのに………。
「お前の膝には泣きぼくろがあるんだな……これ以上濃くするな。溺れてしまうぞ」
哀しくて哀しくて、涙が更に溢れる。

優しさは怖い。

罪だから。
罰だから。

僕の手は、何も守れやしない。
何も癒せやしない。
何かを壊すだけの、ただの兵器だから――――…


「あいつはあきらめろ。もうお前は、俺のものなんだから」

イザークを見上げる。それは知らず、縋るような眼になっていただろう。
泣き濡れて目の端を赤く染めるキラに、イザークは酷く切なそうな瞳を向けていた。
初めて見る、隙だらけの。

頬を伝った涙にイザークは指で優しくそれを払い、ゆっくりと包むように啄ばむ口付けをくれた。

儚く乾いたぬくもりに、キラはそっと瞳を閉じた。














































翌日、アスランはカガリと共にエターナルを降りていった。
結局キラがアスランに直接聞かされたのは、その直前の事で。

キラは笑って、気をつけて、と言うしか出来なかった。


アスランは作るのだろう、カガリを守る国を。

カガリが笑っていられる、その国を。













































         5.
「キラ、この解析見てくれないか?」
キラは情事の後、疲れ果てて眠っていて、ドアフォンの音でやっと眼が覚めた。
ドアフォンから流れた陽気な声は、ディアッカだ。
イザークとの関係は誰にも知られてはいない。
イザークは知られても構わないと酷薄に笑うのだが、それをしなかったのは、キラが嫌がり、関係を誰にも秘密にすると、約束していたからだ。
ディアッカも勿論、今隣で眠るイザークの存在を知る由もないだろう。
キラはとにかく、慌てて脱ぎ散らばっていた服をかき集めようとする。
が、ベッドを降りた瞬間強い眩暈がして、さあ、と音が立ちそうなほど急速に血が降りていった。
足元がふらつき、咄嗟に傍にあった椅子に縋りついたが、それはバランスを崩して倒れてしまう。
「……っ」
倒れる直前、シーツを巻き込んで、上にあったグラスをも、傾かせてしまう。
キィン!、と硬質な音を立てて割れたグラスの上に、
椅子とキラも倒れこむ。
「…っツ!」
「キラ?どうした!大丈夫かよ!」
その音は壁の厚いドアの向こうにさえしっかり響いたらしい。
ディアッカが心配そうに叫ぶ。ドアフォンで呼べば叫ばなくても聞こえるものを、それを思いつく暇もなかったらしい。
「大丈夫、です。ごめんなさい、少し……待って」
ディアッカにそう伝えて、倒れた時明らかにザクッと嫌な衝撃があった右の手の平と肘、肩までに掛けてを恐る恐る見る。
あちこちに刺さっている硝子の破片へ手を伸ばそうとすると、それは途中で白い腕に阻まれた。
振り返るとイザークがいかにも寝起きの気だるさで立っていて、キラの細い手首を?んでいた。
「あ……」
「何をやっている!……もういいから、傷を増やしたくなければじっとしていろ」
イザークの剣幕はキラの抵抗を許さない剣幕があった。
言われるまま動くことも出来ないでいると、イザークの先の細い彫刻のような指が、そっと丁寧に硝子の破片を取り除いていく。
傷は思ったよりかなり深かったらしく、イザークの腕まで流れ、彼の白いシャツを鮮やかに赤く染め上げてしまう。
申し訳なくてキラはせめて少しでも離れようとするが、動くな!と、怒鳴られてしまう。
傷口を真剣に観察してくるイザークの顔は心なしか蒼褪めている気がした。
白い絨毯にも、ぽたぽたと染みていく赤。
動くことを禁じられたキラは、ボタンがいくつかしか止まっていないイザークのシャツから、惜しげもなく覗くしなやかに均整の取れた胸板にドキリとする。
匂い立つような色気を感じて、キラは慌てて眼を逸らした。
「深いな…」
「イザークさ、…っぁ」
イザークは白い肌に流れている血を舐めとるように、手首から唇をつけてきた。
血の跡を辿り、傷口をきぅと吸われる。
熱い痛みが走っては息を詰め、じんわり広がるものから血が滲み出た事を知る。
特に酷い傷は肘のもので、其処を念入りに舐められ、吸われる。イザークが音を立てて飲み込むほどに、血が流れ込んでいった。
「痛いか?」
「ふ……っ、ぁ…少、し」
本当は少しどころではないのだが、それ以上に熱いのは事実で、キラは何かを耐えるようにきゅ、と眼を瞑った。
「キラ…!大丈夫、か………、」
そのときだった。
ピーとドアのロック解除音が聞こえ、ディアッカが部屋に飛び込んできた。
「ディアッカさ……っ」
彼の酷く心配そうだった顔が、たちまち驚愕に歪む。
「イザーク、お前なんで……此処にっ…キラに、何したんだ?」
キラの思考が真っ白になる。
ただ、視線が痛い。そして傷が、ずくずくと熱い。
違う、と言いたいけれど、違うのはこの傷がイザークのせいではないことだけで、この姿では、他に何も否定できない。
情事の後も生々しく乱れた服、シーツ。
そして。
見せ付けるようにもう一度ゆっくり傷を舐め上げて、イザークがやっと顔を上げた。
余裕めいて、ディアッカに視線を移す。
「どういう、ことだよ…イザーク」
ディアッカの言葉に、イザークは、クッと喉を鳴らして哂った。
「見れば、解るだろう?あながち疑っていなかったわけでもないくせに。」
「イザーク、お前……」
「キラが、好きだろう?ディアッカ」
「イザークさ…っ何言って…っはな、して…っ」
キラはイザークから離れようともがいた。
「……っいた…っ」
しかし傷を脅迫のようにぐ、と掴まれ、痛みにきつく縛られてしまう。
「お前は鈍いな、キラ。こんなあからさまな男に気付かないなんて」
イザークはふ、と嘲るように哂った。
「残念だったな、ディアッカ。これは俺のだ。いくらお前でも譲れない」
「キラは…それでいいのか?」
ディアッカが切なそうに問いかけてきたけれど、キラには何も答えることが出来ない。
「意志なんて関係ない。必然だ。俺にはこいつに復讐する権利がある。」
イザークは立ち上がり、ベッドへと腰をかけた。
「キラ、俺はお前を全て支配する。それが、俺の復讐だ」
「しは、い……」
「そうだ。こっちへこい」
何も考える事が出来ずに、キラは言われるままにふらりとイザークの前で跪いた。
「舐めろ」
「……っ」
「命令だ。聞けないのか?まだ、足りないだろう?」
そう酷薄な眼で言われて、キラは大人しく従った。
素直に従わなければ、される仕打ちはもっと残虐なものだ。

イザークの感じるように舌を使うことは、キラにとってそんなに苦痛ではない。
自分の口で反応してくれることは、何となく嬉しくさえもある。
キラは背後のディアッカの存在を気にしつつも、イザークの黒いパンツのフロントを緩め、それを取り出した。

「キラ……ッ」
「お前は早く出て行け、イザーク。キラを苦しめたいならいても構わないが。俺はキラを殺しはしない。痛めつけもしない。ただ、支配する。ゆっくりと、全てを。俺がいなくては生きていけないように―――奥まで」
「イザークお前は……」
「誰にも邪魔はさせない。逃したりもしない。覚えておけ……」
「……キラに、酷いことはするな、あとでちゃんと出ろよ」

キラが苦しむばかりと、そう言われてしまってはディアッカは言うとおりにするしかなかった。
確かに今の自分の存在は、キラを苦しめるばかりだろう。





彼が部屋を出た後、ドアのロックは正常に作動した。




















       ◆◆◆
 「ん……っふ、」
傷がない方の左手でそれを支え、そっと先端を舐めて、それから噎せないようにゆっくりと口腔に含む。
イザークは少し乱暴に、キラの顔に掛かる髪をかき上げた。
その行為をイザークに命じられた事は初めてではなかったから、勝手は解った。それが上手く出来ているかどうかまでは解らないけれど。
舌を絡めるようにしながら、喉の奥で吸うと、イザークのそれがびくびくと震えた。
「……ふ、」
頭上から甘い吐息が零れて、どきりとする。
耳の裏や鎖骨に指が滑ってきて、キラの身体も熱くなる。
静かな部屋の中に、キラの使う舌の音だけが、淫らな水音となって、響く。
聴覚からの刺激が更にキラを熱くさせて、高揚を誘う。
「ん……んん、ふ…」
不意に距離を取る様に髪を引かれる。昂りを察して、キラは更に口腔の奥までイザークを受け入れた。
「く…、」
微かにイザークが呻く。その声にぞくりと背筋が痺れて、キラは薄く涙を滲ませた。
イザークを満たしたという、暗い喜びが微かに胸に燈る。
「っん……く、」
口腔に吐き出されたものを全て飲み下し、キラはイザークを見上げた。
「そうやって男を誘うのは上手いものだな」
イザークは眦を微かに赤く染め、潤んだ瞳で苦しそうに呼吸をするキラに、酷く冷たい言葉を投げ掛ける。
イザークの言葉の棘は確実にキラを傷つける。
キラはそっと俯いてしまったため、向けられた激しい嫉妬の眼差しには、気付くことがなかった。
「……傷の手当てをするから、そこで大人しく待っていろ」
そう言ってイザークは救急箱を取りに部屋を出た。

























一人取り残された部屋で、キラはそっと涙を零した。

哀しいイザークの瞳に、気付いてしまった。
あの哀しい心を、抱き締めたいと、思ってしまった。
もう自分は、イザークから離れられないだろう。
それを後悔はしない。



そう、恋をしてしまったのだ。
アスランではなく、イザークに……









だから。

いくつもの辛い夜を、キラはその想いを抱き締めて眠る。


例え、どんなに酷い仕打ちを受けようとも――――



















































          6.
「……泣きそうな顔してるぜ。無理もないか…」
ディアッカはそう言ってキラを部屋に向かい入れ、ベッドに座るように促した。
初めて入る彼の部屋は想像よりも綺麗だったが、彼はしきりに汚くてゴメンと気にしていた。
ドリンクを手渡されたが最近では飲み物を取るのさえ辛い状況で、キラは開封せずにずっとリングトップを弄っていた。
飲み込む動作が、辛いのだ。
自覚がないだけで自分は、もう、そうとうのところまできているのかもしれない。
「また痩せただろ、キラ……本当に病気なのかもしれないな。一度病院に行こう」
「大丈夫、ですよ」
「大丈夫って…あのな、ろくに動けもしないんだろ?立派な病人だぜ」
「……でも、大丈夫だから。」
「キラ……」
ディアッカはそっと手の甲でキラの頬に触れた。
振り払わなかったのは、その手が凄く、優しくて、哀しかったからだ。
唇が近づいてきた時に逃げられなかったのも、ディアッカの瞳が優しくて、酷く穏やかだったから。
「………ディアッカさんは、僕が気持ち悪くないの?」
微かにぬくもりを残して、離れていった唇。
触れるだけの、キス。
「気持ち悪くなんか、ないよ。オレはキラが好きで愛しいから。だからキスしたかった。
キラこそ、俺を軽蔑しないか?こんな、キラがぼろぼろの時に、付け入るような真似をして。」
「……そんな」
そう答えるしか出来なくて。戸惑う視線を向けると、ディアッカは不意に微笑んだ。
「キラは、優しいな……たまに、残酷なほど」
「優しいのは、ディアッカさんだ。どうして、そんなに優しくしてくれるの?」
「それは、キラが好きだから。好きだから、優しくしたくなるし、いつも笑っていて欲しいと思う。できれば独占したいけど、幸せになってくれるなら、それでいい。――――キラは、イザークが好きか?」
そう問われて、キラはしばらく忘れていた微笑を見せた。
哀しくも、幸せにも、どちらともとれる微笑だった。
見ているほうが痛くなる、そんな。
「僕には、そういうものが求められていないから」
「キラ……」


セックス、しようか。
ちゃんと、愛のあるやつを。
ディアッカはそう言って、キラを抱き寄せた。
キラは拒まなかった。
救ってくれるようでいて、激しく自分を求めてくれる、何処かに素直に見せる我が儘さが、今のキラには必要だった。





        ◆◆◆

じゃれるような口付けに眼を閉じて、キラはディアッカの背中に細い指を回した。
キス一つで身体は重い熱に包まれた。
ディアッカの指が、顎から首筋を何度か往復し、キラは擽るようなその動きに身を捩る。
「オレのキス、気持ちいい?」
そう問いかけられて、キラは遠慮がちに頷く。
こんなキスをキラは初めてした。
求める全てを与えてくれる、そんなキスだ。
「ん…っあ……」
胸の突起を甘噛みされて、キラはびくびくと背を反らせた。
噛んだ痕を癒すように、すぐに柔らかな舌で包まれる。
細やかに舌先で辿られると、ひくん、と身体が震えた。
切なくて喉が焦がれる。
イザークに初めて抱かれた時から、其処はキラの弱点だった。他の箇所よりも何倍にもなった神経が肌の下に集まっているようで、触れられるだけで、鼓動が跳ねる。身体が熱くなる。
「……っあ、くぅ……っん」
じんわりとした快感が身体の奥に蓄積されて、やがて疼いて堪らなくなっていく。
この感覚は、少し強すぎて辛かった。
「キラ……感じやすいんだな。可愛いよ」
ディアッカはキラの細い首筋に唇を押し付けて囁き、キラの前髪を優しく梳いてくる。
「ふ…っぁ……」
ゆるりと下肢を辿ってきた熱い指先は、イザークの酷薄な動きとは違う。キラを感じさせる為の、それだけの動きだ。キラを決して傷つけたりはしない。




望みを叶えられる快楽を、キラは知ってしまった。
イザークならば、決して与えてくれないだろう。
そこで改めて気付いてしまう。
イザークはキラを憎んでいるのだと。
ただ傷つけるために、その痛みを刻み付ける為だけにキラを抱いているんだと。









「キラを、好きになってよかった」



キラが部屋を出る時、彼が一言だけ呟いた言葉が、いつまでもキラの胸につまっていた。






























        7.
 とうとう身体が何も受け付けなくなった。
何かを一口飲み込むだけで酷い嘔吐感に襲われ、それは摂取した以上に続き、胃液を吐ききってしまうのではないのかと思うほど酷かった。
ならばと何も食べたり飲んだりをしなくなり、当然の如く傷の治りも悪くなり、少しの衝撃で傷口が開き、そのたびに酷く血が流れた。
キラはこのまま身体が枯れていくのではないかと思う。
一人きり、ベッドから部屋の天井を見上げ、けれどそれも数分で眼の奥が熱くなってきて疲れ、直ぐに瞼が落ちる。
点滴を続け、針を繰り返し刺して硬くなった細い腕が、痛い。

全てが煩わしかった。

イザークは心配して、ここのところ医者にキラを見せた後、相談に長く戻ってこない時間が続いていた。
今も部屋にいない。医師のところだろうか。

自分ひとりでは起き上がれもしないから、流石にキラの身体に負担が掛かることを迫ってはこずに、するのはごく軽いキスぐらいだった。

そろそろ、彼は飽きたのではないか、と思う。
こんな壊れかけた人形のようなキラを構っても、復讐は愚かつまらないばかりだろう。


キラが壊れるのが先か、イザークが飽きるのが先か。

もう、このゲームの終わりはすぐ傍まで来ているのだ。


こんなになっても、イザークに気持ちがないのを知っても、やっぱり捨てられるのは、辛いから、早く心臓が止まってくれないかと、キラは思う。

僕はあの人の憎しみそのものだから、そのほうがいいのだ。
これでいいのだ。これが一番正しい、道だと。

そう、イザークばかりでなく、誰にとっても。
兵器なんて、存在してはいけないのだ。
全てを壊す前に、自分が壊れてしまえば。
それで、全てが解決するんだから、簡単だ。
自分の価値が、身体にしかなくても、それでよかったと思えた。
イザークは僕に吐き出すことで、少しは何かを変えられた?
憎まれていても、好きで堪らなかった。

イザークの為に最後に何かをしたかったが、今のキラには、名前を呼ぶぐらいしか出来ない。
………いや、出来ることが、一つだけあった。
それには、イザークを呼ぶことが必要だ。







        ◆◆◆

抱いて欲しいと、キラは言った。
イザークは最初、そんな身体で何を言っていると怒ったが、キラがどうしてもと引かなかったので、望み通りに抱いてくれた。
「あッ……く、イ…っザ……ク、んん……っあ」
「キラ…キラ、」
行為の中、初めて名前を呼んだ。
イザークは嬉しそうに微笑んで、キラを呼んだ。
錯覚しそうになる。
イザークの手が優しいから。まるでディアッカのように、ただただ甘さとぬくもりをくれるから。
今までの何もかもを忘れられればいいと思った。
憎しみも、痛みも、二人とも熱に溺れて。
「んあ…っ、ああぁっ……は、」
内壁にある熱が、どくどくと脈打っているのを感じる。
それが引き抜かれるたびに奥が収縮して、吸い付いて締め上げてしまうのが自分でも解る。
全身に快感の痺れがまるで毒のように回って、肌を震えさせる。
「や、あ……っあっ……!」
わざと焦らされて、緩やかになる律動。途端込み上げる疼きを何とかして欲しくて、キラは縋るようにイザークの背にきつく指を回す。
「キラ、もう一度俺を呼べ。欲しいなら、求めてみろ」
貪るような口付けで身体を熱くされ、肌を溶け合うみたいに密着させて抱き締められる。
互いの間で切ない熱がじわりと込み上げて、キラはまるで啼く甘さでイザークを呼んだ。
「イザー……っク…ぅ――――イ、ザー…ク…ッ」
「――っキラ」
涙が、はらはらと零れた。
好きだよ。
どうしようもないくらい、大好き。
だから、
「おねがい……っあ――――…僕を、壊して…っ」
声に出すたび、膨れ上がっていった、この願いを。
「んん…ッふ、ぁっ貴方が、僕を、」
「キラ…っそんな事、許さないッ」
貴方が、叶えて。
貴方しか、叶えられない。
「貴方の、手で、……っ僕を、殺して……っ」
お願い、だから――――
零れ落ちる限界まで灼熱を引き抜かれ、反り返った長さを再び体内に沈められる。
激しく揺さぶられて、キラは途切れ途切れに甘い声を上げた。
凄まじいほどの快楽だった。
淫らな律動と共に送り込まれるのはもう、快楽の波だけだった。
激しすぎる熱に、意識が朦朧としてくる。


あぁ、嘘でいい。偽りでいい。



「ぼくを……っン、ああ…ッ――――あい、して……」



一秒でいい、お願い。

もっと、
もっと、
もっと。
全部を、貴方で満たして。
もう何も考えずに済むように。
指先が、焦がれる。
如何しても、貴方の優しい瞳が、少しでいいから、欲しい―――――
キラは最期までイザークの熱を追い求め続けた。
応えるように、降り注いだ狂おしいくちづけ。

きっと、最後のキスだった。

































最後に聞いた、イザークの声は

―――――愛している、と。


響いた 気がした。






















































Fin.
イザキラアンソロに書いたものです。
余りに昔過ぎて恥ずかしくなってきたらおろします。