『僕とセックスしてよ、アスラン』
『!また馬鹿言って。薬ばかり飲んでいるからそんなわけ解らない思考になっちゃうんだぞ』
『うるさいよ。頭イイからっていつも馬鹿にして』
『馬鹿になんてしてない。心配しているんだ』
『僕の頭がおかしいから?』
ゴンッ
『いったいよ、アスラン!怒ったの?』
『怒るさ』
『ごめんね。怒らないで』
『お前はおかしくなんかない。……少し疲れただけだろ。自分を卑しむんじゃない。悪い癖だ』
『うん……』
『キラ、大丈夫だから』
『うん……。ね、アスラン。駄目なの?』
『うん……?』
『しようよ、僕と。セックス』
『キラ……』
甘やかな痛み-ダイジェスト予告編-
あの頃。
戦争が一時休戦し、やっと自由に会えるようになったあの頃。
キラはアスランの傍にいた。
ずっとそのまま一緒にいられると思っていた。アスランは本気でキラを愛していた。
戦争で疲弊し、薬が必要になっていた状態のキラがアスランを求めてきた時。
それが寂しさや不安からだと解っていてもどんなに嬉しかった事か。
二人を阻むものはもう何もないと思った。邪魔する誰をも許さないと思った。
だからこそあんな状態のキラを抱いたのだ。
一緒にいれると思っていたから。
今はまだアスランの思いが伝わらなくても、きっといつか解かってくれると思っていた。
本気でキラが好きだと、何度言っただろう。
それなのに、キラは尚も心を病んでも、信じてはくれなかった。
それも病んでいく原因になっているだろうに、アスランを頼りはしなかった。
意地を張って、どんどん孤独になっていった。
キラはアスランが何故キラを抱いたのか解かっていない。
慰めなんかじゃない。本気でキラを愛しているからだ。
キラの苦しみごとを抱えてやりたいと思ったからだ。
キラは全く解かっていない。
気づこうともしない。
「僕を殺しにきたのかな?」
「言えないような事なんだ」
「き、キラ!アスランは……」
「俺を馬鹿にするのもいい加減にしろよ、キラ。あんな抱いてもいない女に、誰が恋しているって?」
「カガリが思っているほど、僕らは綺麗な仲じゃないんだよ」
「貴方は…」
「何度言ったら解るんだろうアスラン……そんなことをしたって、僕は君の元へは行かないよ」
「好きにしていいんでしょう?」
「これは病気の一種だよ―――僕は心を病んでいるから……」
「…俺のものだ。キラ……全部」
「貴方は敵で、俺の仕事は戦争だ」
「痛くないと、意味がないから」
「…っキラ!」
「君の中の僕は、今日で死ぬんだ。いいね?綺麗に忘れて」
痛覚に異常を感じたのは、戦後ラクスと暮らし始めてしばらくしてからだった。
さすがに不安を覚えた。とうとう「作り物」の自分のもガタがきたのだろうかと、途方も無い恐怖を感じた。
それは自分だけではないことを知った。
彼にもまったく同じ症状が出ていたのだ。
…驚いたことに、痛覚は、二人の間でだけは、確かに正常に存在した。
彼に近づけば近づくほど感覚は呼び覚まされ、遠ざかれば再び痛覚はなくなる。アスランも同等だった。
それは親友であるお互いを殺しあったという、凄惨な戦争が残した二人の見えない大きな傷跡。
こんなにもお互いを悲しいほど欲している二人。
だからこそ、離れないわけにはいかなかった。
「どうしたんですか、その傷」
「――殺してくれて構わない」
「……本気で、そんな事言ってるんですか」
「抵抗しないんだ?」
「殺してくれるんだろ」
考えは変わらなかった。
守りたいもの全てを投げ出してももう、終わりにしたかった。
どんな惨劇より辛い現実に追い詰められ、いつしか死だけを望むようになってしまった。
愛する人を目の前で奪われる悲しみ。
愛してもらえないのに身体だけを抱かれる恐怖。
嘘ばかりついて偽らなければならない自分の愚かな恋。
もう、自分の死という結末を得てしか苦しみが終わらない。
脆弱で醜悪な、酷く愚かしい存在。
早く壊して欲しい。
こんな自分なんていらない。
こんな風に当たり前に自分という命も消えていくのだろう。
沢山の命を犠牲にして生き残った傲慢な命。
「感じるだろ。貴方もちゃんと人間だ」
「覚えているか?これは俺がやった…お前に、俺を刻み付けるために。そしてお前も俺に刻んだだろう。忘れたとは言わせない」
「裏切り者のくせに!」
「眼を逸らすな。お前は一生俺の傍にいるんだ。二度と離れようなんて、変な気を起こすな」
「…怖い、んだ……もう、何も失いたく、ない。壊し、たく、ない……っ」
「お前が俺にそれを言うのか」
「……約束しただろ、殺してあげるって」
「キラが愛せるのは、俺だけだ」
―――アスラン、アスラン……、
会いたい。
君の傍にいたい。
消されると思っても望んでしまう心。
哀れでしかない感情。
――――もう、あの頃には戻れないんだ。決して……。
息が出来ないほどに溢れる切なさ。
悔しい、
愛しい、
狂おしい―――。
この体温が自分の物にならないなら、もういっそ殺して欲しい。この痛みに耐え切れない。
アスランを忘れる。カガリにアスランを譲る。
よくもそんな出来もしないことを自分は貫こうとしているのか。
抑えきれずに笑いが漏れた。
自嘲的な笑みだ。
泣きながら笑う自分はどんな風にアスランの瞳に映っているだろう――――。
tobe...
『甘やかな痛み』
2007・08・17 コミックマーケット72
東6ホール・レ-45a enddolceスペースにて発売。
当日企画は、ギアス、スザルルコピー本を合わせた新刊セットを予定しています。
(当日まで随時情報更新予定)